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この素晴らしき世界 ♯10

失意のイライザがマイアミに帰った後、どうなったかと言うと・・・。
アルバートから連絡を受け、事の顛末を知ったラガン夫妻のショックは相当なものだったらしい。ラガン氏は娘の愚かさに匙を投げて口を利かなくなり、夫人は娘の行く末を嘆いて寝込んでしまった。意外だったのはニールで、両親に代わってイライザを怒鳴りつけ、延々と説教をしたそうだ。イライザに「おまえは結婚は諦めろ。ホテルの仕事を手伝って、人生の修行を積め」と言い放ったと言う。もちろんしおらしく言うことを聞くイライザではないだろうが、昔はどちらかと言うと妹の言いなりだったニールが、兄としての威厳を見せて妹をこっぴどく叱り飛ばしたというだけでも、キャンディたちにとっては驚きの(ちょっぴり愉快な)ニュースだった。
テレンス・オリビエの消息は不明のままだ。アードレー家を追い出されてマイアミに逃げ帰った後、クラブ歌手の仕事をすぐに辞めてそのまま姿を消し、それから誰も彼の姿を見かけた人はいないらしい。

とある休日、キャンディとアルバートは小さな慈善団体の事務所を訪れていた。
キャンディたちは、エルロイ大おば様の遺言に沿って遺品をあちこちの団体に寄付する手続きをようやく終えたのだが、指示がないまま半端に余ったドレス類やバッグがかなり残っていた。それで、まだリサイクルに回せそうなものをアルバートの車に積んで、まとめて慈善団体に寄付しにやってきたのだ。
ドレスもバッグもいずれも古いものがほとんどだが、何と言っても素材は高価で最上級の品ばかりである。キャンディとアルバートが大量の高級な衣類を運び込んだところ、慈善団体の職員は想像以上に大喜びしてくれた。もちろんサイズがエルロイ仕様なのでそのまま再利用するのは難しいが、リフォームしてデザインやサイズを変えて新たなドレスに生まれ変わらせれば、バザーなどで安価で販売することが可能で、これだけ品質の良いドレスならいくらでも買い手はいると言う。
「良かったわね、全部まとめて引き取ってくれて」
手続きを済ませた後、アルバートの車の助手席でキャンディは嬉しそうに微笑んだ。
「大おば様が、亡くなった後にこんなに社会貢献されることになるなんて、なんだか素敵な展開よね」
「天国からブツクサ文句言ってるかもしれないぞ。『私の貴重なドレスを切り刻んでバザーで売るですって?ウイリアム、なんと恥知らずな!』とか言ってさ」
「ねえ・・・今のもしかして大おば様の物真似のつもり?」
「え?似てるだろ?子供の頃からよく真似して遊んだんだよ」
「・・・ぜんっぜん似てないわよ!何それ、面白すぎてお腹痛いわ。アルバートさんって、本当変な人!」
「おかしいな、ジョルジュは評価してくれてたけどな・・・」
キャンディとアルバートは他愛無い冗談を言いあいながら、しばしドライブを楽しんだ。お昼を過ぎていてお腹もすいたので、屋台でランチを調達して、久しぶりにシカゴ自然公園まで行ってみることにした。
「公園の近くにホットドッグの美味しい屋台が良く出てたわよね!まだあのオジサンいるかしら?」
「この前、車で前を通った時はまだあそこで売ってたよ。よし今日のランチはホットドッグにしよう」
「あ、それと私・・・」
「分かってるよ、マフィンも一緒に食べたいって言うんだろ?言われなくても買ってあげるよ、食いしん坊キャンディ」
「だってー!大おば様のドレスがあまりにも大量で、体力使ってお腹すいちゃったんだもの!」
そうやってじゃれあっているうちに、車はシカゴ自然公園に到着した。

公園の池のほとりに腰を下ろしてホットドッグとマフィンでお腹を満たした後、ふたりは芝生の上に寄り添って寝転がると、午後の陽射しの下で眼を閉じ、のんびりとまどろんだ。もう陽の光も風も、すっかり秋の気配を漂わせている。キャンディは寝返りを打ってアルバートの胸に頬を預けると、心地良い草の香りに包まれて静かな幸福を味わった。
「ね、アルバートさん、あの木、まだ登れるかしら・・・?」
かつてステアが亡くなったとき、キャンディが空にいるステアと話がしたくて登った大木が、公園の端にまだ植わっているはずだった。キャンディの特等席だったあの木の上に、アルバートがやってきて慰めてくれたのはもう10数年前のことだ。
「キャンディ・・・そのスカートで登るのかい?きみはもう30代の立派なマダムだろ?」
アルバートがキャンディの髪をくるくると指で弄びながら、からかうように言う。
「いくつでもいいじゃない!分かった、アルバートさん、自分が年だからもう木登りに自信がないのね!そうよね~、もう悪い子バートも40うん歳・・・」
キャンディがムッとしながら反論しアルバートを挑発したので、アルバートもまたムッとした顔になる。
「こらキャンディ、僕の鍛え上げた体をバカにしちゃいけないよ。見ろよ、この引き締まった腹を。ほら、触ってごらん。今でも木登りくらい朝飯前さ」
寝そべっているアルバートに手をひっぱられ、キャンディは固い筋肉に覆われたアルバートの腹部に触れた。シャツ越しにそっと手を滑らせて撫でると、なめらかな肌に直接触れたい衝動に駆られる。ふたりきり、他には誰もいない池のほとりで、キャンディはアルバートのシャツを無意識に引っ張り上げ、さらされたその肌にそっと手を伸ばした。悪いことをしているみたいで、触れているうちに胸がいたずらに騒ぎだす。頬が熱くなるのに、動きを止めることができない。
「・・・いけない子だね。木登りはどうしたの?」
「木登りは、もう、いい・・・」
「木登りより、したいこと見つけたの・・・?」
キャンディは手でアルバートの肌のぬくもりを確かめながら、覆いかぶさるようにして唇と唇を重ねた。音を立てて優しいキスを交わしているうちに、キャンディの手はもっとアルバートに触れようと伸びていく。不意に唇を離したアルバートが、キャンディの手首を掴んで動きをストップさせた。
「おっと、これ以上はここではダメだよ。悪い子だね、キャンディ。続きは帰ってから」
たしなめるように笑うと、アルバートは甘くくちづけながらキャンディの身体を抱き起こした。

公園の近くに停めた車に戻る道すがら、例の大木の前を通りかかった。キャンディとアルバートは木の下でどちらからともなく足を止め、その立派な枝ぶりや大きなシルエットをまじまじと見上げた。こうして登り甲斐のある木を前にすると、ふたりともどうしても野生の血が騒ぎだしてしまう。
「・・・やっぱり、帰る前に」
「ちょっとだけ、登ろうか」
キャンディとアルバートはニヤリと顔を見あわせると、競うように大木まで走っていき、慣れた動きでひょいひょいと登り始めた。だが、調子良かったのは最初だけで、ふたりとも寄る年波とブランクには勝てず、途中から脚がなかなか上がらなくなるわ息は苦しくなるわで、無謀な試みを後悔する羽目になった。それでもなんとか見晴らしのいい位置まで登り切ると、頑丈そうな太い枝に並んで腰かけ、広がる空をゆったりと眺めた。
果てしなく続く大きな空にしばし見惚れる。誰かが亡くなっても、こうしてまた世界は続いていく。
大おば様、アンソニー、ステア・・・。みんなこの空の向こうで、アードレー家を見守ってくれているのだろうか・・・。そうであってほしい。空を見上げるたびに、彼らとの繋がりを感じていたい。
澄み渡った大空を切ない想いで見上げていると、アルバートがそっと肩を抱いてくれた。キャンディは静かに首を傾けてアルバートのシャツの肩先に頬を押し当てた。こうしてお互いの体温を感じながら、これから先も亡くなった人たちの分まで懸命に生きていこうと心で呟く。

「おじさん、おばさん、何やってるの?そこ登っちゃいけないんだよ!」
突然子供の声に咎められギョッとして地上を見下ろすと、木の下に子供たちが数人集まって、キャンディとアルバートを見上げている。そして彼らの後ろには、公園の管理事務所の職員らしき初老の男性が、苦々しい顔で腕組みしてこちらを睨んでいた。
「お客さん、困りますよ!危ないから降りてきてください、違反行為ですよ!」
キャンディとアルバートは「しまった!」と身をすくませた。
「す、すみません!!今っ、すぐ、すぐ降りますーー!!」
「参ったな、この木、いつ登るの禁止になったんだ?」
「知らない!ああ、子供たちがじっと見てる・・・いやーん、恥ずかしい・・・!」
「あっ、ちょっとキャンディ、僕の頭を蹴らないでくれよ。イテテ・・・!」
「やーん、下からスカート覗かれないよう、アルバートさん、ちゃんとガードしててよ?!」
大騒ぎしながら、慌てふためいて木から降りてくる、いい年をした変わり者のカップル。まさか彼らが、シカゴで一番有名なアードレー家大総長とその夫人だなんて、その場にいる人間は夢にも思っていないだろう。

気付けば、シカゴの空の彼方がうっすらと朱く染まり始めている。なんて美しい世界だろう。いま生きていることを、心から幸せに思う。
トニーたちが待っている。早く家に帰ろう。でもその前に、怖い顔の管理人さんに謝らないといけない。
キャンディとアルバートは、イタズラが見つかった子供のような顔を見あわせて、こっそり微笑みあった。


END





# by akaneiro16 | 2016-08-11 21:21 | ファンフィクション

この素晴らしき世界 ♯9

9月の夜風は肌を心地良く撫で、キャンディの巻き毛を微かに揺らしていく。
耳を澄ますと、暗緑色に染まる裏庭の茂みから澄んだ虫の声が聞こえてくるが、それもすぐ熱い息遣いにかき消される。アルバートの吐息だと思っていたら、キャンディ自身の息もまた熱く漏れ始めていて、恥ずかしさに思わず耳が熱くなる。キャンディは月光にさらされたアルバートの閉じた瞼や頬のラインを見下ろしながら、砂色がかったブロンドの髪を指で何度も梳いた。
キャンディの胸に顔を埋めて唇を這わしているアルバートの姿は、最初は大きな子供のように無防備に見え、こんなに成熟した大人の男性なのに、キャンディは「可愛い」とすら思った。ところが唇や手の動きが少しずつなまめかしいものに変わっていき、やがて舌先で転がされたり音を立てて吸われたりするうちに、キャンディはすっかり余裕を失ってしまった。今やアルバートの頭を胸に抱え込んで、その巧みな愛撫に身をのけぞらせそうなほど感じてしまっている。

ネグリジェの下で下着がじんわりと湿り始めていることに気付き、キャンディは息を乱しながらアルバートに訴えた。
「バート・・・私、濡れちゃったみたい・・・」
「ん・・・?どのくらい・・・?」
アルバートが顔を上げ、頬を紅く染めているキャンディをじっと見つめながらネグリジェの裾に手を入れてきた。下着の隙間から指を差し入れ濡れそぼった秘所をそっと撫でる間も、アルバートはキャンディの顔から瞳をそらさない。むしろ妻の恥じらう表情を楽しんでいるような蠱惑的な眼差しに、キャンディは魔法にかけられたかのように逃げ場を失う。蜜が既に溢れかけている窪みに指をほんの少し入れられただけで、キャンディはビクンと身を震わせてアルバートの肩にしがみついた。
「本当だ、もうとろけてる。・・・ベッドに行こうか」
キャンディがアルバートの首筋に顔を押し当てて頷くと、アルバートはクスッと笑って立ち上がりながら力強い腕でキャンディを抱きあげた。

ヘッドボードにいくつも重ねた上質な枕に背を預け、キャンディはアルバートとのキスに我を忘れていった。
優しい手つきで両脚を大きく割られ、熱をもって固くなったアルバート自身をそっと押し当てられる。反射的にキャンディが腰を揺らすと、アルバートはキスを深めながら更に強く密着させた。
滴るような音をたてて激しくくちづけあうごとに、キャンディの秘所から溶け出す蜜がアルバートを絡めとっていく。頭で考えるより先にキャンディは両脚を更に大きく広げ、アルバートの背中を掻き抱いた。
濡れて埋もれるような感覚で、アルバートがキャンディのなかへと誘われていく。半分ほど入ったところで、アルバートは緩やかな動きでキャンディを翻弄した。
「ここ、好きだよね・・・?このくらい・・・?」
「う、ん・・・。好き・・・。あ、そこ、ダメ・・・」
キャンディを知り尽くしたアルバートが、それでもまだ味わい足りないとでも言うように貪欲にキャンディの秘密を探し続ける。キャンディはアルバートにそうされるのが、好きでたまらない。お腹の奥から切ない欲望がじわじわと湧き出して、もっとアルバートを自分のなかに欲しくてワガママになってしまうのだ。
アルバートは少しずつ奥へと進みながら、同時にキャンディの紅く敏感になった小さな突起を親指でいじった。柔らかく円を描くように繊細に指を動かされ、キャンディの眼の奥が眩しくはじけそうになる。
「あ・・・っ、バート・・・!」
キャンディの震えるような反応を伺いながら、アルバートが更に深く入り込んだ。
「もっと欲しい?」
「・・・欲しい・・・。もっと、全部・・・」
「ん、全部、入れるよ」
濡れた音を立てながらアルバートがキャンディを追い込んでいく。奥まですべて入ってしまうと、キャンディは吐息交じりの甘い声を響かせ、アルバートの背中にキュッと爪を立てた。

抱きあい繋がりながら、身体のあらゆるところをからませあい、シーツの上で乱れた。
キャンディは自分のなかにアルバートを溶かし込んでしまいたい衝動に駆られていた。今はアルバートの膝の上に跨って肌を隙間なく密着させながら、もっとひとつに溶けあえるよう、もどかしげに動き続けている。
腰を掴んでいたアルバートの両手がキャンディの身体の脇を滑らかに這い上がってきて、やがてつぼみをとがらせた胸元まで辿り着く。キャンディは期待するように少し肌を浮かせて隙間を作ると、アルバートの大きな手を胸のふくらみへと招き入れた。
慣れた手つきでまろやかに愛撫され、キャンディはせつないほどの快感に身をよじらせた。ばら色に染まった胸の先端を指の腹で優しくこねられ、ちょっと意地悪な加減で摘んではまた転がされる。その度に身体の奥が絞られるように締め付けられ、熱い吐息が抑えられなくなる。キャンディは無意識にアルバートの手に自分の手を重ね、官能的な愛撫をもっと欲しがった。キャンディに刺激されて、アルバート自身もますますキャンディのなかで熱を帯びていく。

キャンディが軽い痙攣のような動きを見せ、一足先に達してしまった。
「や・・・私、もう、来ちゃった・・・」
キャンディは恥ずかしげに泣きそうな声を漏らした。
「いいよ、好きなときにいって。可愛いよ、すごく」
「恥ずかしい・・・バートと、一緒がいいのに・・・」
「ん、じゃあ一緒に、もう一度いこうか」
アルバートはぐったりと力の抜けたキャンディの身体をシーツの上に仰向けに寝かせると、優しく頬を撫でながら愛でるようなくちづけを繰り返した。キャンディもまだ荒い息のまま、アルバートの手に自分の手を重ねてキスに応える。
「バート・・・すごくすごく、大好き。私がずっと守ってあげる」
身内を亡くしたこういう時こそ、お互いの存在の大切さを痛いほど実感するのかもしれない。キャンディは自分の内側から、泣き出しそうなほどアルバートを愛おしく思う気持ちが溢れるのを止められなかった。
「僕はいつだって、きみに守られてるよ。きみがいてくれれば、僕は何もいらない」
その言葉にキャンディが瞳を潤ませると、アルバートは愛おしげに妻の額にくちづけた。先ほど達した余韻にキャンディの身体はまだ小さく震えていたが、アルバートは優しく労わるように気を配りながら、キャンディのなかへと再び入ってきた。

「・・・はぁっ・・・」
キャンディが声を抑えることも忘れ、身をしならせた。アルバートが耳元で繰り返し甘い言葉を囁きながら、優しく動いてキャンディの内側をほどいていく。キャンディはすぐにまた気怠い心地良さを感じ始めた。その感覚が、徐々に締め付けるような甘酸っぱい引き金に向かって絞られていく。
再び昇りつめるまで、さほど時間はかからなかった。重なり合う肌の熱さが、確かに自分たちは生きて愛しあっているという実感をふたりに与え、それが互いへの愛おしさをますます募らせる。それだけで充分だった。
アルバートの動きが大きくなっていき、こぼれる息が熱く激しくなる。互いの身体から汗が滲み、キャンディはアルバートについていこうと必死ですがりつき、甘く喘ぎ続けた。
やがてキャンディが二度目の激しい波を迎え、アルバートの肩を強く噛んだ。アルバートは低く呻きながら生きている証をキャンディの奥にすべて注ぎ込んだ後、放心してキャンディの上に崩れ落ちた。
果てても尚、ふたりは互いの体温を確かめるように、両手を強く握りあっていた。





# by akaneiro16 | 2016-08-08 16:43 | ファンフィクション